ベッドから車椅子への移乗のコツ|力がいらない介助方法

介助のコツ

はじめに

「ベッドから車椅子に移すのが、毎回つらい」

「腰が痛いけど、車椅子に移さないと……」

そう感じて、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。

抱え上げようとして、腰がギクッとなる。相手と一緒によろけて、ヒヤッとする。一日に何度もあることだから、その負担は積み重なっていきますよね。

介護老人保健施設で理学療法士をしているタカです。現場でもご家庭でも、この「移乗(いじょう)」——ベッドと車椅子の間を移る動き——で体を痛めてしまう方を、本当にたくさん見てきました。

実は私自身も、現場で腰を痛めてしまった経験があります(笑)。だからこそ、お伝えしたいことがあるんです。

でも、安心してください。移乗は、力ではなく「コツ」で決まります。

ちょっとした準備と体の使い方を変えるだけで、驚くほどラクになるんです。

この記事では、力に頼らずラクに移乗するコツを、今日から家でできる手順でやさしくお伝えします。

理学療法士タカタカ
「自分の力が足りないせい」と思っていませんか。違うんです。コツを知らないだけなんですよ。

介助を始める前に(安全のひとこと)

⚠️ 移乗は、介助する人・される人の両方がケガをしうる動きです
痛みや持病がある方、自分ひとりでは不安な場合は、無理をせず、ケアマネジャーやリハビリ職に一度ご相談ください。今の介助方法が体に合っているか、見てもらうだけでも安心です。

なぜ移乗で腰を痛めてしまうのか

移乗で体を痛める原因は、はっきりしています。「相手を持ち上げよう」としているからです。

考えてみてください。大人ひとりの体重は、軽い方でも40キロ前後、50〜60キロは珍しくありません。それを腕の力だけで抱え上げようとすれば、腰に大きな負担がかかって当然なんです。

移乗は「持ち上げる」動きではありません。「移す」動きです。

ここを勘違いしたまま続けると、介助する人の腰が先に壊れてしまいます。

私も若くて未熟なころは、力任せに移乗介助をしていました。その結果は、もうお分かりですよね。はい、ぎっくり腰です。2日間の自宅療養で、仕事を休む羽目になりました。

正しい知識を持つこと、力任せにしないこと。これが本当に大事なんです。

私がお伝えしたいのは、たったひとつ。頑張る方向を、力ではなく「コツ」に変えてほしいということです。

力がいらない移乗の5つのコツ

それでは、具体的な手順を見ていきましょう。順番に押さえれば、力はほとんどいりません。

理学療法士タカタカ
まずは「準備」が9割。ここを整えるだけで全然違いますよ。

① 車椅子を「斜め(0〜30度くらい)」に置く

最初のコツは、車椅子の位置です。

ベッドと車椅子を真正面に並べると、移す距離が長くなり、体をねじることになります。これが腰を痛める大きな原因です。

おすすめは、ベッドにほぼ沿わせる〜少し斜め(0〜30度くらい)に車椅子を置くこと。こうすると、相手を少し回すだけで車椅子に座らせられます。距離が短く、ねじりも小さくてすみます。

車椅子のブレーキは必ずかける。フットレスト(足を乗せる台)は上げておく。

フットレストが開くタイプの場合は、開いてから行うのがおすすめです。これを忘れると、車椅子が動いたり足が引っかかったりして、転倒やケガのリスクが高くなります。

② ベッドの高さを合わせる

次に、ベッドの高さです。

相手が浅く腰かけたとき、足の裏がしっかり床につき、膝の角度が100〜120度くらいになる高さに調整します。足が床について膝が軽く曲がると、相手も自分の足で踏ん張れるので、ぐっとラクになります。

高さの変えられる介護用ベッドなら、介助する人が前かがみにならずにすむ高さにしておくと、腰の負担が減ります。

③ 相手に「できるだけ近づく」

3つ目は、自分と相手の距離です。

荷物を持つときも、体から離して持つと重く感じますよね。移乗も同じです。相手と体を離したまま介助すると、何倍も重く感じます。

相手にしっかり近づいて、おへそとおへそを向き合わせるくらいの気持ちで。

距離が近いほど、力はいりません。

④ 持ち上げず「前かがみ」で立たせる

ここが、いちばん大事なコツです。

人は、まっすぐ後ろに体重を預けたままでは立てません。立ち上がるときは、必ず一度「前かがみ(おじぎ)」になっています。

ご自身でもやってみてください。前かがみにならずに立とうとしても、立てないはずです。

だから移乗でも、相手におじぎをするように前へ傾いてもらう。すると、お尻が自然に浮いて、軽い力で立てるんです。

中には、足腰が弱っていてお尻が浮きにくい方もいます。そういうときは、介助者がお尻を斜め上の方向へ少し押してあげると、浮きやすくなります。

無理に上へ引っぱり上げる必要はありません。相手の前傾を、そっと前へ引き出すイメージです。

理学療法士タカタカ
「よいしょ」と上に引くんじゃなくて、「おじぎ」で前に。これだけで本当にラクになります。

⑤ 自分の足腰を使い、「回して」座らせる

最後は、介助する人自身の体の使い方です。

腕の力で何とかしようとせず、自分も膝を軽く曲げて、腰を落として構えます。背中はまっすぐのまま。力は腕ではなく、太ももなど大きな筋肉から出すイメージです。

そして相手が立ったら、相手にベッド側の足を一歩出してもらいます。あとは、自分の足を踏み替えて、その場でクルッと向きを変える。車椅子の方へ弧を描くように回し、ゆっくり腰を下ろしてもらいます。

腰を「ねじる」のではなく、足ごと「回る」。これが、腰を守る最後のポイントです。

もっとラクにするための+α

福祉用具に頼るのは「正解」です

ここまで読んで、「それでも不安」と感じた方へ。

道具に頼ることは、けっして手抜きではありません。むしろ賢い選択です。

移乗を助けてくれる福祉用具には、立ち上がりを支える手すりや、お尻の向きを変えやすくする回転式のクッション(移乗ボード・ターンテーブル)などがあります。多くは介護保険を使ってレンタルできます。

福祉用具の選び方やレンタルについては、こちらでくわしく紹介しています。
福祉用具の選び方
福祉用具レンタルの使い方|介護保険で安く借りる

「全部自分で」を手放す

移乗の介助がどうしてもつらいときは、その負担を一人で抱え込まないでください。

ケアマネジャーに相談すれば、福祉用具の手配や、介助方法の指導を受けられます。私たちリハビリ職が、ご自宅でやり方を見せて教えることもできます。

まとめ|移乗は「力」ではなく「コツ」

理学療法士タカタカ
完璧を目指さなくて大丈夫。ひとつでも試してみてください。きっとラクになりますよ。

最後に、要点をまとめます。

① 移乗は「持ち上げる」のではなく「移す」動き。力任せは腰を痛める
② 車椅子はベッドにほぼ沿わせる〜少し斜め(0〜30度くらい)に置き、ブレーキとフットレストを忘れない
③ ベッドの高さを合わせ、相手の足の裏を床につける
④ 相手にできるだけ近づき、「おじぎ」で前傾して立たせる
⑤ 自分は膝を曲げて腰を落とし、ねじらず足ごと「回って」座らせる

いちばん伝えたいこと
移乗で大切なのは、あなたの腕力ではありません。準備と体の使い方、そして「持ち上げない」という考え方です。コツをつかめば、介助する人もされる人も、もっとラクになります。

あなたの体を守ることは、介護を長く続けるための土台です。どうか、ご自分の腰も大切にしてくださいね。

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