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はじめに
「向きを変えてあげたいのに、重くて、腰がつらい」
そう感じて、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。
寝たきりに近い方の介護で、何時間かおきに体の向きを変える「体位変換」。床ずれを防ぐために、2時間おきの体位変換が目安と言われています。毎回よいしょと持ち上げるようで、自分の腰も悲鳴をあげる。相手も「痛い」「怖い」と顔をしかめる。
介護老人保健施設で理学療法士をしているタカです。この体位変換を、力任せに「持ち上げて」しまって、お互いつらい思いをしている方を、現場でもご家庭でもたくさん見てきました。
でも、安心してください。体位変換も、力ではなく「コツ」です。
人の体は、ちょっと工夫するだけで、ころんと軽く向きが変わります。持ち上げる必要は、ほとんどありません。
この記事では、お互いに負担の少ない体位変換のコツを、今日から家でできる手順でやさしくお伝えします。
タカ介助を始める前に(安全のひとこと)
すでに赤くなっている部分や、痛みを訴える様子があるとき、医療的な管理が必要な方の場合は、無理をせず、ケアマネジャーや訪問看護・リハビリ職にご相談ください。今のやり方が体に合っているか、一度見てもらうだけでも安心です。
なぜ体位変換は「重く」なるのか
体位変換がつらくなる原因は、はっきりしています。「体を持ち上げて、向きを変えよう」としているからです。
人の体は、思っている以上に重いものです。それをベッドから浮かせて動かそうとすれば、当然、腰に大きな負担がかかります。
でも、よく考えてみてください。向きを変えるだけなら、体を浮かせる必要はありません。
体位変換は「持ち上げる」のではなく、「ころんと転がす」動きです。
寝返りを思い出してみてください。私たちは寝ているとき、体を浮かせて向きを変えてはいませんよね。ひざを立てて、そのひざを倒した勢いで、自然にころんと横を向いています。
その「自然な寝返りの動き」を、そっと手伝ってあげる。これが体位変換の基本です。
以前、ひざも立てず、ベッドも低いまま、力ずくで寝返りをさせていて、腰をとてもつらそうにされている方に出会ったことがあります。そこで、ひざの立て方とベッドの高さ——つまり「持ち上げないための準備」をお伝えしました。すると、見違えるほどラクに。介助するご家族にもやり方を覚えていただいて、お互いに負担なくできるようになりました。
力ではなく、ちょっとした手順の問題だったんです。私がお伝えしたいのは、力の使い方を「持ち上げる」から「転がす」に変えるだけ、ということです。
負担の少ない体位変換の5つのコツ
それでは、具体的な手順を見ていきましょう。順番に押さえれば、力はほとんどいりません。ここでは、あおむけから横向きにする体位変換を例にお話しします。
タカ① まず、ベッドの高さを自分の腰の高さに
最初のコツは、実は体ではなく「ベッドの高さ」です。
低いベッドに中腰でかがんで作業すると、それだけで腰はつらくなります。高さの変えられる介護ベッドなら、自分の腰くらいの高さまで上げてから始めましょう。
目安は、まっすぐ立って、軽く手を握って下ろしたとき、こぶしがベッドに届くくらいの高さです。
中腰をやめるだけで、腰の負担はぐっと減ります。
ベッドの高さが変えられない場合は、ひざを床について作業すると、腰を丸めずにすみます。できれば、高さの変えられる介護用ベッドの導入をおすすめします。
② 体を「小さくまとめる」
ここが、いちばん大事なコツです。
向きを変える前に、まず体を小さくまとめます。具体的には、こうします。
・両腕を組んでもらう
・両ひざを立てる(立てられないときは、ひざの下にクッションを入れて少し曲げる)
手足を広げたままだと、転がすのに力がいる。小さくまとめると、同じ体重でも驚くほどラクになります。
手足が広がっていると、その一つひとつを一緒に動かすことになり、大きな力がいります。胸の前で腕を組み、ひざを立てて「一つの塊」にすると、少しの力でころんと転がせます。
タカ③ 自分の体に「引き寄せて」から
次に、自分の立ち位置です。
介助者は、向きを変える方向とは反対側に立ちます。そして、片方の腕を相手の肩(首の付け根のあたり)の下に、もう片方の腕をお尻(骨盤)の下に、そっとくぐらせます。ちょうど「お姫様だっこ」のような形ですね。
タカ遠くのものを動かすより、近くのものを動かすほうが、力はずっと少なくてすみます。それに、いったん体を自分の側へ少しずらしておくと、このあとの「転がす」が軽くなるうえ、向こうへ転がしたときに体がちょうど真ん中におさまり、ベッドの端へ寄りすぎずにすみます。
④ 「持ち上げない」。立てた膝を、ことんと倒す
いよいよ向きを変えます。でも、持ち上げません。
まず、顔も、向く方向へ先に向けてもらいましょう。顔が向くと、体も自然についてきやすくなります。
そのうえで、立てた膝に手を添えて、向けたい方向へ、ことんと倒します。すると、その勢いで、腰、背中、肩と、体が自然についてきて、ころんと横向きになります。
肩が残ってしまうときだけ、肩甲骨のあたりにそっと手を添えて、転がる動きを助けてあげてください。あくまで「助ける」だけ。引っ張ったり持ち上げたりはしません。
タカ⑤ 横を向いたら、背中と脚にクッションを
最後は、向きを変えたあとの仕上げです。
横向きにしたら、背中にクッションや丸めたバスタオルを当てて、姿勢を安定させます。
そして、上になった脚は、両ひざの間から足先までを支えるように、細長いクッション(または丸めたバスタオル)を入れます。脚がねじれず、骨と骨も当たらないので、ラクな姿勢が保てます。
ぴったり真横(90度)まで向けると、体の骨が出っぱっている部分に体重が集中してしまいます。少し斜め(背中に枕を入れて30度くらい)に留めるのが、体にやさしい向きです。
もっとラクにするための+α
なぜ体位変換が必要なのか(ひとことだけ)
同じ姿勢で長く寝ていると、ベッドに接した部分の血液循環が悪くなり、皮膚が赤くなったり、いわゆる「床ずれ(褥瘡:じょくそう)」につながることがあります。床ずれは、一度できると治りにくく、ご本人もつらいものです。
体位変換は、この床ずれの予防に役立つ、大切なケアです。先ほど触れたように2時間おきが目安と言われますが、ご本人の状態によって変わります。間隔は、医師や訪問看護師に一度確認しておくと安心です。
福祉用具を使うと、もっとラクになる
体位変換は、道具を使うとさらにラクになります。
たとえば「スライディングシート」というすべりやすいシートを体の下に敷くと、少しの力で体の向きや位置を変えられます。こうしたシートには、介護保険を使ってレンタルできるものもあります。
→ 福祉用具の選び方
→ 福祉用具レンタルの使い方
もうひとつ、手にはめて使う「圧抜きグローブ(背抜きグローブ)」も便利です。体位変換のあと、体とベッドの間にすっと手を差し込むようになでると、寝具のしわや、体にかかる圧の集中をやわらげられます。これは介護保険の対象外で、自費で購入して使う道具です。手ごろな価格で、ひとつあると、毎日のケアがラクになることが多いです。
声をかけてから動かす
最後に、いちばん大切な「ひと言」を。
黙っていきなり動かすと、誰でも驚いて、体に力が入ってしまいます。「これから右を向きますね」と、向きを変える前に必ず声をかけましょう。
それだけで、体の力が抜けて、ずっとスムーズに転がってくれます。介護は、力より声かけが効くこともあるんです。
まとめ|体位変換は「持ち上げる」ではなく「転がす」
タカ最後に、要点をまとめます。
① 体位変換は「持ち上げる」のではなく「ころんと転がす」動き
② まずベッドを腰の高さに上げて、中腰をやめる
③ 腕を組み、ひざを立てて、体を小さくまとめる
④ 顔を先に向け、立てた膝をことんと倒す(自分のほうへ引き寄せてから)
⑤ 横を向いたら、背中と脚にクッションを当てて、少し斜めで安定させる
体位変換が重いときは、力が足りないのではなく、力の“使い方”が違うだけ。「持ち上げる」ではなく「転がす」。体を小さくまとめて、ことんと倒す。これだけで、介護する人もされる人も、ぐっとラクになります。
あなたの腰を守ることは、介護を長く続けるための土台です。どうか、ご自分の体も大切にしてくださいね。


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