はじめに
「母のために歩行器を買ったのに、まったく使ってくれない…」
「高い車椅子を購入したけれど、後々使わなくなってしまった…」
介護をしていると、こんな“福祉用具の買い物の失敗”は本当によくあります。
介護老人保健施設で働く現役理学療法士タカです。現場では、福祉用具選びで戸惑うご家族をたくさん見てきました。福祉用具は、使う方の生活をぐっとラクにしてくれる頼もしい道具です。でも、選び方を少し間違えるだけで、「せっかく買ったのに使わない」「かえって危なくなった」ということが起きてしまいます。
この記事では、福祉用具選びで失敗しないための5つのポイントを、やさしく解説します。読み終わるころには、「何を基準に選べばいいか」「どこに相談すればいいか」が、はっきりしているはずです。
福祉用具は「買う前」がいちばん大事
先に、いちばん大切なことをお伝えします。福祉用具は、買ってから後悔する人がとても多い道具です。理由はシンプルで、多くの方が「いきなり買ってしまう」から。
でも、福祉用具には心強い味方がいます。ケアマネジャーや福祉用具の専門相談員、そして私たちのようなリハビリの専門職です。さらに、介護保険を使えば「まずは借りて試す」こともできます。
相談できる専門家がいて、介護保険を使えば「まず借りて試す」こともできます。あわてて買わなくて大丈夫。これから、その賢い選び方を順番に見ていきましょう。
福祉用具選びの基本3原則
失敗しない選び方には、土台になる3つの原則があります。ここを押さえるだけで、大きな失敗はぐっと減ります。
① 使う「本人の体」に合わせる
いちばん大事なのは、カタログの見た目ではなく、使う本人の体の状態に合っているかどうかです。
たとえば歩行器ひとつでも、握る力が弱くなってきた方には軽いアルミ製、ふらつきが心配で安定感がほしい方には4輪タイプ、と選び方が変わります。「見た目がよさそう」「ご近所さんが使っているから」という理由だけで選ぶと、本人には合わず、結局使わなくなってしまうことが多いのです。
以前、ある利用者さんのご家族が、私たちに相談する前にホームセンターで簡易的な歩行器を買ってこられたことがありました。ところが、自宅で使うには少し大きかったのです。別の部屋では使えず、結局は物置部屋に置かれたままになってしまいました。
② 「家の環境」に合わせる
どんなに良い福祉用具でも、自宅の環境に合わなければ宝の持ち腐れです。
廊下の幅、段差の有無、トイレやお風呂の広さ——これらを測ってから選ぶことが大切です。とくにマンションと一戸建てでは、必要な用具が大きく変わります。賃貸か持ち家か(壁に穴を開けられるか)も、手すりなどでは重要なポイントになります。
③ 「介護する人」の負担も考える
意外と忘れられがちなのが、介護する家族の負担です。
本人が使いやすくても、介護する人が扱いにくい福祉用具では長続きしません。たとえば、しっかりした車椅子は本人は安定しても、車に積みおろしするご家族は重くて大変、ということがあります。いまは介護する側も年齢を重ねていることが多いもの(いわゆる老老介護)。家族みんなが無理なく使えるか、を必ず選ぶ基準に入れましょう。
ご家族が購入した車椅子で、足を乗せる部分(フットサポート)が横に開かないタイプだったことがありました。すると、乗り移りのときにフットサポートが邪魔になって動きにくく、足がぶつかって怪我をしてしまった利用者さんもいました。
よくある失敗3つと、その対策
ここからは、現場でしばしば見かける“あるある失敗”と、その防ぎ方を紹介します。
失敗①:見た目で選んで、使わなくなる
「安定していそうだからと4点杖を買ったけれど、意外と重くて結局使わない」——これは本当によく聞きます。
【対策】必ず実物を試してから選びましょう。福祉用具は、機能が第一、デザインは第二です。実際に持って歩いてみて、握りやすさ・重さ・安定感を確かめることが大事。多くの福祉用具のお店では、事前にお試しで借りられます。「試してから決めたいのですが」と相談してみてください。業者さんによりますが、だいたい1週間程度お試しすることができます。
失敗②:高いものを買ってしまい、「レンタル」を知らなかった
「車椅子を購入して、数か月で体の状態が変わって使えなくなった」——こうした“高い買い物の後悔”も珍しくありません。
【対策】介護保険を使えば、多くの福祉用具を月数百円〜数千円でレンタルできます。とくに体の状態が変わりやすい時期は、買うよりレンタルのほうが安心です。介護ベッドや車椅子のように高価なものほど、まずはレンタルがおすすめ。「合わなければ返せる・交換できる」のは、とても大きな安心材料です。
失敗③:サイズが合わず、かえって転びやすくなる
「背の低い母に、標準サイズの歩行器を買ったら、かえって歩きにくそう」——サイズの合わない用具は、ラクにするどころか転倒のリスクを高めてしまうことがあります。
【対策】杖や歩行器は、必ず高さを調整できるものを選び、専門家に合わせてもらいましょう。
杖や歩行器は、高さが数センチ違うだけで使い勝手がガラッと変わります。サイズが合わないまま使うと、かえって転びやすくなることもあるので注意してください。不安なときは、ケアマネジャーや福祉用具の相談員、私たちリハビリ職に高さを合わせてもらうと安心です。
【用具別】選び方のポイント
代表的な福祉用具について、選ぶときのコツを簡単にまとめます。
杖・歩行器
杖を選ぶときは——
- 身長に合った高さ(軽くひじが曲がるくらい。「気をつけ」をしたときの手首の高さが目安)
- 高さを調整できるもの
- グリップ(握り)が手になじむもの
- 先ゴムがしっかりしているもの
- 重さは300〜400gくらいが目安
歩行器は——
- 4輪タイプ:安定感があり、室内向き
- 2輪タイプ:軽くて持ち運びやすい
- キャスター付き:小回りがきく
体の状態によって最適は変わります。迷ったら、私たちリハビリ職や福祉用具の相談員に声をかけてください。
手すり
手すりは、設置する「場所」がとても大事です。優先したいのは次の場所です。
- トイレ(立ち座りのサポート)
- 玄関(靴の脱ぎ履き)
- 階段(昇り降りの安全)
- お風呂(浴槽のまたぎ)
手すりは一度つけると動かすのが大変なので、取り付け位置は、理学療法士や作業療法士に相談してから決めるのがおすすめです。工事をせずに、置くだけで使える「据え置き型」の手すりもあります。
ベッド・マットレス
介護用ベッドは、高さ調整の機能がいちばん重要です。
- 背上げ機能(食事やテレビのときにラク)
- 高さ調整(立ち座りがしやすくなる)
- サイドレール(転落を防ぐ)
- マットレスは体圧分散タイプ(体重が一点に集まらず、床ずれの負担をやわらげるもの)を選ぶ
ベッドは高価で、体の状態でも合うものが変わるので、購入よりレンタルが安心です。
ベッドからの起き上がりや乗り移りは、「体の使い方」しだいで介護する家族の腰も守れます。くわしくはこちら。
→ 介護で腰を痛めにくい体の使い方|理学療法士が教える5つのコツ
トイレまわり
トイレの用具は、ご本人の「自分でできる」を守るために、とくに大事です。
- ポータブルトイレ:夜間の転倒予防に役立つ
- 便座の高さ調整:立ち座りがラクに
- 手すり:トイレの中での安全確保
夜中のトイレは、転倒が多い時間帯でもあります。夜間の転倒対策は、こちらもどうぞ。
→ 自宅でできる高齢者の転倒予防体操
介護保険でかしこく使う
福祉用具は、介護保険を使えば負担をぐっと減らせます。ここが「らくらく介護」のいちばんお得なポイントです。
レンタルと購入の使い分け
- 体の状態が変わりやすい時期に使うもの
- 介護ベッドや車椅子など、高価なもの
- 使う期間が限られているもの
- 長く使う予定のもの
- 杖や簡単な手すりなど、比較的安いもの
- ポータブルトイレなど、衛生面が気になるもの
申請の流れ
介護保険で福祉用具を使うときの、基本の流れです。
① ケアマネジャーに相談する
② 福祉用具の専門相談員が家に来てくれる
③ 用具を選ぶ・提案してもらう
④ レンタル、または購入
⑤ 定期的に点検・見直し
- 介護保険を使うには、要介護・要支援の認定を受けていることが前提です
- レンタルは費用の1〜3割が自己負担(所得により異なります)
- 購入する場合は年間10万円までという上限があります(対象の用具)
要介護認定や申請の流れがまだピンとこない方は、こちらの記事もどうぞ。
→ 在宅介護が始まったら最初にやること5つ|理学療法士がやさしく解説
困ったら、まずケアマネジャーに相談を
福祉用具選びで迷ったら、ケアマネジャーが頼れる相談相手です。相談するときに伝えるといいのは、次の4つです。
- いま、何に困っているか(できるだけ具体的に)
- 家の間取りや段差の様子
- 介護する人の状況(同居か別居か、介護にかけられる時間など)
- 予算
遠慮せずに「分からないこと」を全て相談して大丈夫です。ケアマネジャーが、必要な専門職や業者へつないでくれます。
まとめ|福祉用具選びは「3つに合わせる」が基本
福祉用具選びで失敗しないコツは、たったこれだけです。
① 使う本人の「体」に合わせる
② 「家の環境」に合わせる
③ 「介護する人」の負担も考える
④ 見た目より機能。必ず試してから選ぶ
⑤ 高価なものは、まず介護保険でレンタル
高い用具=良い用具、ではありません。その人の病状や状態・住宅・介護する家族、すべてに合った用具こそが、その人にとっていちばん良い用具です。そして、ひとりで選ばないこと。ケアマネジャーや私たち専門職を、どんどん頼ってくださいね。
福祉用具は、ご本人の「自分でできる」を支え、介護する人の負担を軽くしてくれる、心強い道具です。この記事が、あなたの用具選びの一助になればうれしいです。


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