起き上がりの介助のコツ|腰を痛めず、ラクに起こす4つの手順

介助のコツ

はじめに

「朝、ベッドから起こそうとして、腰にヒヤッときた」

そんな経験はありませんか。

首の下に腕を入れて、ぐいっと引き上げる。相手の体は重いし、こちらの腰は伸びきったまま。起こしたころには、二人とも息が上がっている。毎朝これが続くと、いつぎっくり腰になってもおかしくありません。

先に、いちばん大事なことだけお伝えします。起き上がりの介助でつらいのは、力が足りないからではありません。「引き上げよう」としているからです。

人の多くは、真上には起きていません。無意識に一度、横を向いてから起きています。この体の順番どおりに手伝えば、力はほとんど要りません。

介護老人保健施設で働く現役理学療法士の私が、その順番を4つの手順に分けてお伝えします。今日からそのまま使える内容です。

⚠️ 始める前に
持病や強い痛みのある方、麻痺のある方は、自己流で動かすと体を痛めることがあります。始める前に、かかりつけの医師やリハビリ職に一度相談してください。
理学療法士タカタカ
力づくで介助しているうちは、まだ動作の順番に逆らっています。順番に乗れば、驚くほど軽くなりますよ。

なぜ「引き起こす」起き上がりはつらいのか

引き起こす介助がつらいのは、体のいちばん重いところを、いちばん不利な向きで持ち上げているからです。

頭と胸は、体の中でもずっしり重い部分です。仰向けのまま上体を起こすということは、その重さを腹筋だけで真上に持ち上げるということ。これは若い人でも大変な動きです。腹筋運動を思い浮かべてください。あれを毎朝、他人の分までやっている——引き起こす介助は、それに近いことをしています。

されている側もラクではありません。首や腕を引っぱられると、痛みが出ることがあります。肩に力が入って、体は緊張して固くなります。固くなった体は、さらに重くなります。

では、私たちは普段どうやって起きているでしょうか。

朝、自分がベッドから起きるときを思い出してみてください。仰向けからそのまま腹筋で起き上がっている人は、ほとんどいないはずです。多くの方が最初に横を向いて、肘をつき、手をついて、足を下ろしながら起きています。人の体は、そうやって起きるようにできています。

だから、介助もその順番に合わせるだけでいいのです。

この記事でお伝えしたいことは、これに尽きます。

引き上げるのではなく、
横を向いてから、起こす。

理学療法士タカタカ
「重い」と感じたら、力を足すのではなく、順番を疑ってみてください。

起き上がり介助の4つの手順

ここからが本題です。順番どおりにやってみてください。

① 仰向けから横向きになってもらう

【主役は本人/あなたは向きを助けるだけ】

まず、体を横に向けます。起こしたい側(ベッドから足を下ろす側)に向けるのが基本です。

このとき、寝返りができる方には自分でしてもらってください。全部手伝う必要はありません。膝を立てて、体を向けたい方向に手を伸ばしてもらうだけで、自分で回れる方はたくさんいます。

あなたが立つのは、ベッドの横、相手の腰のあたりです。足元から遠く手を伸ばすと、それだけで腰に負担がかかります。

起き上がりの介助 仰向けで両膝を立てて横を向く

膝を立てるだけで、体はぐっと回りやすくなります

📖 寝返り自体が難しい方の手伝い方は、こちらでくわしく書いています。→ 寝返りができない高齢者への介助のコツ

② 両足をベッドの外へ下ろす

【やるのはあなた】

この4つの中で、いちばん効くのがここです。

以前、ご家族が起き上がりを手伝う場面を見ていて、思わず「あっ」と思ったことがあります。先に上体を起こしてから、体を回すようにして足を出していたのです。介助はかなりきつそうでした。

順番が逆になっていませんか。上体を起こす瞬間に、足はまだベッドの上。重さがすべて、あなたの腕にかかります。

正しくは、その逆です。横を向いたら、上体を起こす前に、先に両足をベッドの外へ下ろします。

足を先に下ろすと、何が変わるのか。

下ろした足の重みが、そのまま上体を起こす助けになります。てこと同じです。片方が下がれば、もう片方は起こしやすくなる。特別な力は要りません。

そのご家族にも、順番をひとつ入れ替えて、先に足を下ろすようにお伝えしました。すると——それだけで簡単に起き上がれるようになり、とても喜ばれていました。変えたのは力ではなく、順番だけです。

足を下ろすのに、力は要りません。腕を伸ばして引っぱらず、体ごと近づいてください。

起き上がりの介助 横向きのまま両足をベッドの外へ下ろす

上体を起こす前に、先に足。ここが最大のコツです

💡 ポイント
「上体が先、足はあと」になっていないか確かめてください。順番を入れ替えるだけで、必要な力はまったく変わります。

③ 下になっている肘で支えてもらう

【主役は本人/あなたは声かけと誘導】

足を下ろしたら、下側の肘をベッドについてもらいます。

この肘が支点になります。ここを飛ばすと、最初から最後まで腕力勝負になります。逆に肘さえつけば、あとは体の向きが変わるだけです。

自分で肘をつくのが難しければ、肘の位置に手を添えて誘導してください。「ここに肘をついてくださいね」と声をかけながら添えるだけで、できる方もいます。

ここであなたがすることは、ほとんどありません。手を出しすぎると、また腕力勝負に戻ります。

④ 肩を下から支え、膝を押さえて、骨盤を中心に回す

【やるのはあなた+本人に手をついてもらう】

最後の仕上げです。

片手を肩の下に入れて下から支え、もう片方の手で膝を軽く押さえます。膝を押さえるのは、下ろした足が浮いてこないようにするためです。足が下がったままなら、さきほどのてこがそのまま効いてくれます。

そして、上に引くのではなく、骨盤を中心にして体を回します。起こすというより、円を描くイメージです。

このとき、本人には手をついてもらいます。回る動きと同時に、肘から手のひらへ支えが移り、体が起き上がります。

やってはいけないのは、首の後ろや腕を引くこと。痛みが出ますし、体が固くなってかえって重くなります。支えるのは、肩の下と膝。この2か所だけです。

引き上げようとした瞬間に、あなたの腰は反ります。回すだけなら、腰は守られます。

起き上がりの介助 ベッドの端に腰かけた姿勢

肘をつき、次に手をついて、体を回すように起こします。引き上げないのがコツ

理学療法士タカタカ
上に引きたくなったら、いったん手を止めて。「回す」と思い直すだけで、力の要り方が変わります。

介助する人の腰を守るコツ

手順どおりにやっても腰がつらいときは、あなたの体の位置と、ベッドの高さを見直してください。

まず、立つ位置です。足元やベッドの端に立って、遠くから手を伸ばしていませんか。相手の腰のあたり、体の横に立ってください。遠ければ遠いほど、腰の負担は増えます。近づくだけで、負担はぐっと減ります。

次に、ベッドの高さです。低すぎるベッドは、腰にとって最大の敵です。前かがみの姿勢で起こすことになり、中腰のまま力を入れることになります。高さが変えられるベッドなら、まず上げてください。目安は、腕を下ろしてグーにした手が、マットレスに軽く当たるくらい。起こし終わったら、本人の足が床につく高さまで下げる。この上げ下げのひと手間が、あなたの腰を守ります。

そして、支える場所。首や腕は引かない。肩の下と膝。これだけ覚えておけば大丈夫です。

📖 腰を痛めない体の使い方は、こちらでまとめています。→ 介護で腰を痛めにくい体の使い方

高さが変えられないベッドなら

今使っているベッドの高さが変えられないなら、道具に頼るのもかしこい選択です。

手すり(ベッド用グリップ)や、背上げや高さ調節ができる介護用の電動ベッド——いわゆる介護ベッドは、介護保険のレンタルで使えることがあります。買えばまとまった出費になるものが、1割負担なら月に数百円から千数百円ほど。負担の重さがまったく違います。

ただし、要介護度によってはレンタルの対象にならないこともあります。特に介護ベッドは、対象になる方の条件が決まっています。

まずはケアマネジャーさんに「起き上がりがつらい」と伝えてみてください。使えるかどうかも含めて教えてもらえます。自費で買う前に、相談です。

📖 福祉用具の選び方とレンタルの使い方は、こちらでくわしく紹介しています。→ 福祉用具の選び方福祉用具レンタルの使い方(介護保険)

全部手伝う前に、本人に残せる動き

ここまで手順をお伝えしてきましたが、手順と同じくらい大事なことを最後に書きます。

全部やってあげることが、
いい介助とはかぎりません。

起き上がりは、一日の最初の動作です。ここを毎回すべて手伝っていると、本人が体を起こす機会はゼロになります。使わない力は、少しずつ落ちていきます。そして落ちた分、次はもっと手伝いが必要になる。この繰り返しで、介助はどんどん重くなっていきます。

以前、起き上がりを毎回すべて手伝っていた方に、少しずつ本人の動きを残していったことがあります。まずは寝返りだけ自分で。次は足を下ろすところ、そのまた次は肘をつくところ——と、手伝う場所を減らしていきました。手をつきながら座る姿勢にうつるところまで、順番に本人へ返していったのです。人によって差はありますが、この方は3か月ほど続けたころには、ほとんど自分で起き上がれるようになっていました。手伝いを減らすことが、本人の力を残すことにつながっていったのです。

だからといって、突き放す必要はありません。4つの手順のうち、できるところを本人にお願いするだけでいいのです。

横を向くのは自分で。足を下ろすところだけ手伝う。肘をつくのは声かけで。最後だけ支える——こんなふうに、手伝う場所を少しずつ減らしていきます。

時間はかかります。手伝ったほうが早いのは事実です。それでも、朝の一回だけでも待ってみてください。本人の力が残るということは、あなたの介助が軽くなるということでもあります。

理学療法士タカタカ
待っている時間は、むだではありません。本人の力が残るぶん、明日のあなたがラクになります。

自分ではほとんど動けない方の場合

ここまでは、本人が少しでも動ける場合の話でした。寝返りも肘をつくことも難しい——いわゆる全介助の方には、また別の考え方が必要です。

いちばんお伝えしたいのは、一人で無理をしないことです。

体をまったく支えられない方を、一人で起こそうとするのは危険です。あなたの腰が限界を超えるだけでなく、途中で支えきれず、相手を落としてしまうことがあります。手が借りられるときは、二人で介助してください。一人が肩と背中、もう一人が腰と足を受け持つだけで、負担は半分以下になります。

道具の力も借りてください。背上げのできる介護ベッドがあるなら、使わない手はありません。

ただし、ボタンを押す順番があります。

先に膝の部分を上げてから、背を上げてください。いきなり背だけを上げると、体がベッドの足元へずるずると滑り落ちてしまいます。膝を先に上げておけば、下がろうとする体をベッドが受け止めてくれます。

背が上がったら、今度は膝を下げます。そこから横を向いて、ベッドの端に腰かける姿勢へ——この順番なら、あなたが持ち上げる場面はほとんどありません。ベッドの機能は、遠慮なく使っていいものです。

介護ベッドの膝を上げてから背を上げる

先に膝を上げてから、背を上げる。この順番だと、体がずり落ちません

💡 ポイント
膝を上げる → 背を上げる → 膝を下げる。この順番を覚えておくだけで、ベッドが介助を肩代わりしてくれます。

そして、全介助だからといって、声かけをやめないでください。「これから横を向きますよ」「肘をつきますね」と動きを伝えるだけで、体のこわばりがやわらぐことがあります。わずかでも本人の動きが出れば、それは介助を軽くしてくれます。

一人での介助がきついと感じたら、それは相談のサインです。ケアマネジャーさんに伝えれば、訪問リハビリや福祉用具など、使える手を一緒に考えてもらえます。自宅での実際の動きを見てもらうのがいちばん早い解決策です。

理学療法士タカタカ
「一人でやりきる」ことが、いい介護ではありません。人と道具に頼るのも、りっぱな介護の技術です。

起き上がったあとに痛がる・ふらつくとき

手順どおりにやっても、うまくいかないことがあります。そんなときは、無理をしないでください。

起き上がった直後にふらつく、気分が悪そうにする。
これは血圧が関係していることがあります。横になっていた状態から急に体を起こすと、血圧が一時的に下がり、めまいが起こることがあります。起き上がったあと、すぐに立たせず、ベッドに座ったまま1〜2分ほど休む時間をとってください。それだけで落ち着くことも多いです。気分の悪さが強いときは、無理に座らせ続けず、いったん横になってもらいましょう。

📖 落ち着いてから立つときのコツは、こちらでくわしく書いています。→ 立ち上がりの介助のコツ

特定の場所を痛がる。
肩、腰、背中など、決まった場所を毎回痛がるときは、支え方が合っていないか、体そのものに原因があるかもしれません。まずは首や腕を引いていないか確認を。それでも続くなら、我慢させないでください。

昨日までできていたのに、急にできなくなった。
これはいちばん見逃してはいけないサインです。骨折や体調の変化が隠れていることがあります。

痛みが強いとき、急に動きが変わったときは、かかりつけのお医者さんやケアマネジャーさんに相談してください。介助の工夫で乗り切ろうとしないことも、大切な判断です。

まとめ

起き上がりの介助は、力ではなく順番です。

引き上げるのではなく、横を向いてから、起こす。

手順をもう一度おさらいします。

① 仰向けから横向きになってもらう
② 両足をベッドの外へ下ろす
③ 下になっている肘で支えてもらう
④ 肩を下から支え、膝を押さえて、骨盤を中心に回す

そして、介助する人が立つのは相手の体の横。ベッドは高く。引くのは首や腕ではなく、支えるのは肩の下と膝。

自分ではほとんど動けない方なら、一人で抱えこまず、人と道具の力を借りてください。

いちばん伝えたいこと
引き上げるのではなく、横を向いてから、起こす。そして、できるところは本人に残す。この2つが、明日のあなたの腰を守ってくれます。明日の朝、一度試してみてください。「あれ、軽い」と感じられたら、それが正解の合図です。

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