はじめに
「そういえば最近、親が自分で寝返りをしなくなった気がする」
そう感じて、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。
朝、起こしに行くと、いつも同じ向きで寝ている。夜中に何度も「体の向きを変えて」と呼ばれる。自分で寝返りができなくなると、ご本人もつらいですし、支えるご家族の負担も一気に増えます。
でも、大丈夫です。
寝返りには、力任せにしない介助のコツがあります。コツをつかめば、ご家族の負担はぐっと軽くなる。そして、ご本人が自分で動ける力を、取り戻せることもあります。
介護老人保健施設で働く現役理学療法士の私が、寝返りができなくなる原因と、力に頼らない介助のコツを、順番にお伝えします。
持病や痛みのある方、麻痺のある方は、自己流で無理に動かすと体を痛めることがあります。始める前に、かかりつけの医師やリハビリ職に一度相談してください。
高齢者が寝返りできなくなる原因
寝返りは、実は全身が連動した「ひねり」の動きです。
仰向けから横を向くとき、私たちは無意識に、顔を向きたい方へ向け、腕を伸ばし、膝を立てて体をひねっています。どれが先というより、これらがつながって起こります。だから、どこか一つがうまくいかないだけで、寝返りは急に難しくなります。
高齢の方で多いのは、次のような理由です。
- 筋力が落ちて、体をひねる力が弱くなる
- 肩や股関節、背中が硬くなり(関節の拘縮)、腕や膝が動かしにくい
- 体の動かし方そのものが分からなくなる
現場でとくに多いと感じるのは、筋力の低下と、関節が硬くなること(拘縮)です。長く寝て過ごすと、使わない筋肉は落ち、動かさない関節はこわばっていきます。そこに、入院や体調不良でしばらく寝て過ごすうちに、寝返りのコツ自体を体が思い出しにくくなることも重なります。
もう一つ、見逃せない原因があります。よかれと思って何でも手伝ってしまう、いわゆる「過介護」です。ご本人が本当はできることまで代わりにやってしまうと、使わない力は少しずつ落ちていきます。やがて、自分では寝返れなくなってしまうこともあるのです。
病気が関係することもあります。脳梗塞などで体の片側に麻痺があると、麻痺した側へ寝返るのが難しくなります。パーキンソン病では、体をひねる動きがぎこちなくなります。こうした場合は、次に紹介するコツに加えて、リハビリ職に相談すると安心です。
タカ家族ができる寝返り介助のコツ
介助のコツは、たった一つの考え方に集約されます。全部やってあげる前に、
『少しずつ手伝う』
これだけです。
いきなり体を持ち上げて向きを変えるのは、ご家族の腰に大きな負担がかかりますし、ご本人が自分で動ける力を使う機会も奪ってしまいます。まず基本の動きを知って、手伝う量を段階的に増やしていきましょう。
実際、現場でご家族に動作のちょっとしたコツをお伝えすると、「こんなに簡単にできるんですね」と驚かれることが少なくありません。知っているかどうかだけで、介護の負担は大きく変わります。
タカまず、寝返りの基本の動きを知る
仰向けから横を向くとき、体は次の順番で動きます。介助する人がこの流れを知っているだけで、手伝い方がまったく変わります。
- 顔を、向きたい方へ向ける(顔が先に向くと、体もついていきやすくなります)
- 向きたい方へ、腕を伸ばす(両手を軽く組んで、一緒に持っていくとやりやすい方もいます)
- 両膝を立てる(足の裏を敷布団につけて、膝を三角の形に)
- 立てた膝を、向きたい方へパタンと倒す(倒す膝につられて、体が回っていきます)
①顔を、向きたい方へ向ける

②向きたい方へ、腕を伸ばす

③両膝を立てる

④立てた膝を倒して、横向きに

ポイントは、膝です。立てた膝を倒すと、その勢いで骨盤が回り、体が自然とついてきます。力ずくで肩を起こすのではなく、膝から先にひねる。これが寝返りのいちばんのコツです。
寝返りは「上半身を持ち上げる」より「膝を倒してひねる」。膝が動きの起点です。
手伝う量は、3段階で増やす
段階1:声をかけるだけ。
「顔をこっちに向けて、膝を立ててみましょう」と、順番に声をかけてみてください。動き方さえ思い出せば、自分で寝返れる方は意外と多いものです。できる部分は待つ。手を出しすぎないのも、立派な介助です。
段階2:膝を立てるところだけ手伝う。
声かけだけでは難しいとき、膝の下に手を入れて、両膝を立てるのを手伝います。膝さえ立てば、あとは自分で倒して寝返れる方は少なくありません。
段階3:膝と肩で、転がすように手伝う。
それでも難しいときは、介助するあなたが、寝返る先の側(顔が向いてくる側)に立ちます。立てた膝を手前にゆっくり倒しながら、向こう側の肩に手を添えて、そっと手前へ転がします。腕を引っぱって起こすのではなく、体全体を転がす感覚です。膝と肩が同じ方向に回れば、思っていたより軽い力で転がせることが多いんです。
タカ寝返りできないままだと、体に何が起きるか
寝返りが減ると、同じ姿勢で過ごす時間が長くなります。
同じところがずっと敷布団に当たっていると、その部分の血の巡りが悪くなります。すると皮膚が赤くなったり、床ずれにつながったりします。関節も、動かさない日が続くと少しずつ硬くなっていきます。
とはいえ、過度に怖がる必要はありません。大切なのは、時々でも体の向きが変わること。ご本人が少しでも動ければ、それが床ずれの予防につながります。自分で難しいときの、定期的な向き変え(体位変換)のやり方は、別の記事でくわしく紹介しています。
寝返りしやすい環境をつくる
見落とされがちですが、寝る環境も寝返りのしやすさを左右します。
やわらかすぎるマットレスは、体が沈み込んで、かえって寝返りしにくくなります。適度な硬さがあると、膝を立てたり体をひねったりする力が伝わりやすくなります。
ベッド用の手すり(ベッド柵)があると、それをつかんで自分で体を引き寄せられる方もいます。
道具に頼るのは、けっして手抜きではありません。ご本人が自分で動ける環境を整えることは、自立を助ける立派な介助です。
心配なときは
急に寝返りができなくなった、片側だけ動かしにくい、痛みを伴う——こうしたときは、自己流で続けず、専門家に相談してください。
かかりつけの医師や、担当のケアマネージャー、リハビリ職(理学療法士・作業療法士)が相談先になります。ご本人の状態に合わせた、その人だけの動かし方を教えてもらえます。
まとめ
寝返りは、顔・腕・膝がつながって起こる、全身の「ひねり」の動きです。
できなくなる原因は、筋力の低下や関節の硬さが中心で、そこに動かし方が分からなくなることも重なります。だからこそ、全部を手伝ってしまう前に、声かけから始めて、手伝う量を少しずつ増やしてみてください。膝を立てるきっかけを渡すだけで、自分で動ける方は少なくありません。
力ずくで持ち上げるのではなく、膝を倒してひねる。腕を引っぱるのではなく、そっと手前へ転がす。この2つを覚えておくだけで、ご本人もご家族も、ずっとラクになります。今日から、まずは膝を立てるお手伝いから始めてみましょう。


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