高齢者がむせるのはなぜ?|むせる原因と危ないサインの見分け方

在宅介護の知恵

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はじめに

最近、親が食事のたびにむせるようになった。お茶を飲むだけでもゴホゴホとせき込む。そんな様子を見て、「どうしたんだろう」「放っておいて大丈夫かな」と心配になっていませんか。

こんにちは。介護老人保健施設で働く、現役理学療法士のタカです。施設の現場で、食事の場面を数えきれないほど見てきました。

「むせ」は、年のせいだからと見すごされがちです。でも、その裏には、ちゃんとした理由があります。そして、知っておいてほしい「危ないサイン」も隠れています。

この記事では、高齢者がむせる原因をやさしく解説したうえで、「心配のいらないむせ」と「気をつけたいむせ」の見分け方、そして今日から家でできる工夫まで、順番にお伝えします。

⚠️ はじめに、ひとつだけ
急に激しくむせ込んで苦しそうなときや、むせをくり返したあとに熱が出たときは、早めにかかりつけ医を受診してください。この記事は、日々の「むせ」の原因と工夫をお伝えするものです。気になる症状が続くときは、自己判断せず医師に相談しましょう。

高齢者がむせるのはなぜ? 主な原因

そもそも「むせる」とは、どういう状態でしょうか。

私たちののどは、食べ物や飲み物が通る道(食道)と、空気が通る道(気管)が、すぐ近くで枝分かれしています。ふだんは、飲み込む瞬間に、のどのフタ(喉頭蓋=こうとうがい、といいます)が働いて、食べ物が気管のほうへ入らないようになっています。

ところが、何かのはずみで食べ物や飲み物が気管のほうへ入りかけると、体は「危ない!」と反応して、せきで押し返そうとします。これが「むせ」の正体です。つまりむせは、まちがって入りかけたものを追い出す、体を守るための大切な反射なのです。

では、なぜ高齢になると、むせが増えるのでしょうか。いくつか理由があります。

① 飲み込む力(嚥下=えんげ)が落ちてくる
年を重ねると、のどの筋肉や、飲み込むときの反射が、少しずつおとろえてきます。フタが閉じるタイミングがほんのわずかに遅れるだけで、食べ物が気管側へすべりこみやすくなります。これが、最も大きな要因のひとつです。

② 口やのどが乾いている
だ液が減ると、食べ物がうまくまとまらず、のどを通りにくくなります。薬の影響で口が乾きやすくなっている方も少なくありません。

③ 早食い・ながら食べ
急いで食べたり、テレビを見ながら食べたりすると、飲み込みに集中できず、むせやすくなります。

④ 姿勢が悪い
背中が丸まって下を向いた姿勢や、あごが上がった姿勢は、食べ物がのどを通る時の角度が悪くなり、むせやすくなります。

⑤ 入れ歯が合っていない・歯が少ない
よく噛めないと、食べ物が大きいまま飲み込まれて、のどに引っかかりやすくなります。

⑥ 病気が背景にあることも
脳卒中のあとや、パーキンソン病、認知症などでは、飲み込みの働きが落ちることがあります。急にむせが増えた、というときは、こうした背景がかくれていることもあります。

ここで、現場でよく見る意外な事実をひとつ。

むせると聞くと、固いものやのどに詰まりそうな食べ物を思い浮かべるかもしれません。でも、現場でいちばん多いのは、水やお茶でむせる方なんです。

サラサラした水分は、するりと早くのどを通るぶん、飲み込む準備が間に合わず、気管へ流れ込みやすいのです。飲み込む力が落ちている方では、自分のだ液でむせてしまうこともあります。

「水なら大丈夫」ではなく、「サラサラだからこそ気をつける」。これは、ぜひ覚えておいてください。

理学療法士タカタカ
「固いものだけ危ない」と思われがちですが、実はサラサラのお茶こそ要注意。意外でしょう?

その“むせ”、危ない? 受診すべきサインの見分け方

むせのすべてが、すぐに心配というわけではありません。健康な人でも、急いで飲んだときなどに、たまにむせることはあります。

ただ、気をつけたいむせもあります。見分けるポイントをお伝えします。

まず、知っておいてほしい言葉があります。「誤嚥(ごえん)」です。これは、食べ物や飲み物、だ液が、まちがって気管のほうへ入ってしまうこと。そして、それが原因で肺に炎症が起きるのが「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」です。

実は肺炎は、高齢者の死因の上位に入る病気です。そして、その肺炎の多くに、この誤嚥が関わっているといわれています。

とはいえ、必要以上にこわがらないでください。大切なのは、サインに早く気づくことです。次のような様子が続くときは、一度かかりつけ医に相談してみましょう。

こんなサインが続くときは相談を
・食事のたびに、毎回のようにむせる
・食事の途中や食後に、よくせき込む
・食後に、のどがゴロゴロ・ゼロゼロと鳴る(痰がからむ)
・声がガラガラ・かすれた感じになる
・原因がはっきりしない微熱をくり返す
・食事に時間がかかるようになった、食べる量が減った、体重が減ってきた

こうしたサインは、飲み込む力が落ちてきていることや、誤嚥が起きていることを教えてくれているのかもしれません。

そして、もうひとつ。いちばん気づきにくいのですが、誤嚥してもむせない方がいます。これを「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」といいます。

むせという合図が出ないぶん、家族も本人も気づきにくく、やっかいです。

見分けるヒントをひとつ。飲み込んだ直後に、ふっと息を吐いているか、観察してみてください。人は飲み込む瞬間、息を止めます。きちんと飲み込めていれば、その後に自然と息がもれます。逆に、息がもれてこないようなら、気管に入りかけているのかもしれません。見分けるのが難しくても、心配いりません。気になるサインがあれば、その様子を医師に伝えれば十分です。

理学療法士タカタカ
こわがらせたいわけじゃないんです。早めに気づけば、できることはたくさんありますから。

一方、普段は元気でときどき軽くむせて、せきですぐ治まる方は、まずは次にお伝えする食事の工夫から試してみて大丈夫です。

今日からできる、むせを減らす食事の工夫

ここからは、家ですぐにできる工夫です。むずかしい道具は要りません。今日の食事から試せます。

① 姿勢を整える

いちばん大事なのが姿勢です。

・椅子に深く座り、足の裏を床にしっかりつける
・背すじを軽く伸ばし、あごを少しだけ引く(うつむきすぎず、上を向かない)

あごを軽く引くと、食べ物がのどを通る角度がよくなり、気管へ入りにくくなります。これだけで、むせがぐっと減る方もいます。

② 一口の量を少なめに、ゆっくり

一度に口へ入れる量を、スプーン軽く一杯くらいに。口の中のものを飲み込んでから、次の一口へ。早食いは、むせのいちばんの近道です。

以前、早食いが目立つ利用者さんがいました。ふつうサイズのスプーンで、どんどん口に運んでしまう方です。そこで、スプーンを一回り小さいものに変えてみました。すると、一口の量が自然と減り、結果的に早食いがおさまって、むせることもぐっと少なくなったのです。

道具を変えるだけで、こんなに違うのか、と私もおどろきました。ご家庭でも、スプーンを小さくするだけで、すぐ試せます。「ゆっくりでいいよ」の声かけと、合わせてみてください。

理学療法士タカタカ
特別な道具より、まず「姿勢」と「ひと口の量」。今日の一食から変えられますよ。

③ 食べることに集中できる環境に

テレビを消す、しゃべりながら食べない。飲み込む瞬間に集中できるだけで、むせは減ります。

④ 食べやすい形にする

パサパサしたもの(パン、ゆで卵、いも類)や、サラサラの水分は、実はむせやすい食べ物です。

・飲み物には、市販の「とろみ剤」でとろみをつけると、のどをゆっくり通って飲み込みやすくなります
・おかずは、やわらかく煮る、刻む、あんかけにするなど、まとまりやすくする工夫を

なお、こうした「飲み込みやすい食事」を毎日用意するのは、思った以上に手間がかかります。やわらかく煮る、とろみをつける、栄養も考える。介護をしながらの食事づくりは、大きな負担です。

そんなときは、配食サービスに頼るのも、かしこい選択です。やわらかさを調整したものや、飲み込みやすいように作られた高齢者向けのメニューを、家まで届けてくれるサービスがあります。

◆ メディカルフードサービス「健康宅配食」(やわらか食・ムース食など、噛む力・飲み込みに配慮したコースもある宅配食)

お試しプランが用意されていることもあるので、まずは気軽にのぞいてみるのもいいと思います。

飲み込みの力を保つケアと、困ったときの相談先

むせを減らすには、食事の工夫に加えて、「のどの飲み込む力そのものを保つ」ことも役立ちます。

のどや口を動かす簡単な体操(嚥下体操)があり、食事の前にひと息おこなうと、飲み込みの準備運動になります。やり方は「高齢者のむせ込み予防|嚥下体操・口腔体操の簡単なやり方」でくわしく紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。

そして、もうひとつ。「むせが気になるけれど、どこに相談すればいいの?」という方へ。

● かかりつけ医
まずはここへ。必要に応じて専門の科を紹介してくれます。

● 耳鼻咽喉科・嚥下外来
飲み込みの状態をくわしく調べてくれます。「飲み込みが心配で」と伝えれば大丈夫です。

● 歯科・歯科口腔外科
入れ歯が合っているか、口の中の状態も、むせに関わります。

● ケアマネジャー・地域包括支援センター
介護全般の相談窓口。食事の悩みも、ここから専門職へつないでもらえます。

ひとりで抱え込まず、気軽に相談してみてください。

まとめ

理学療法士タカタカ
むせは、体からの小さなお便り。気づいてあげられるのは、いちばん近くにいるあなたです。

最後に、今日のポイントをふり返ります。

高齢者のむせは、飲み込む力が少しずつおとろえることで起こります。年のせいと見すごさず、まずは原因を知ることが第一歩です。

1. むせは、食べ物が気管に入りかけたのを追い出す体の反射
2. 毎回むせる・食後にせき込む・微熱をくり返すときは受診を
3. 家では「姿勢・一口量・ゆっくり・食べやすい形」でむせは減らせる
4. 食事づくりがつらいときは配食に頼っていい
5. 心配なら、かかりつけ医やケアマネに気軽に相談を

いちばん伝えたいこと
むせは、体からの小さなサインです。気づいて、少し工夫してあげるだけで、食事の時間はぐっと安心なものになります。大切な人が、毎日の食事を楽しく安全に過ごせますように。

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