立ち上がりの介助のコツ|お互いにラクな方法【理学療法士が解説】

介助のコツ

はじめに

「立ち上がらせるとき、腕を引っ張って、毎回ヘトヘト」

そう感じて、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。

椅子から、ソファから、トイレから。一日に何度もある「立ち上がり」の介助。そのたびに腕を引っ張り上げて、自分の腰もつらいし、相手も「痛い」と顔をしかめる。そんな経験はありませんか?

介護老人保健施設で理学療法士をしているタカです。この立ち上がりの介助を、力任せにしてしまってお互いつらい思いをしている方を、現場でもご家庭でもたくさん見てきました。

でも、安心してください。立ち上がりも、力ではなく「コツ」です。

体には、ラクに立てる“自然な動き”があります。それに沿って少し手伝うだけで、驚くほど軽くなるんです。

この記事では、お互いにラクな立ち上がりの介助のコツを、今日から家でできる手順でやさしくお伝えします。

理学療法士タカタカ
腕を引っ張るのは、いちばんつらいやり方なんです。実は、ほとんど引っ張る必要はないんですよ。

介助を始める前に(安全のひとこと)

⚠️ 立ち上がりの介助は、急がせると転倒やケガにつながります。
痛みや強いふらつきがある方、自分ひとりでは不安な場合は、無理をせず、ケアマネジャーやリハビリ職に一度ご相談ください。今のやり方が体に合っているか、見てもらうだけでも安心です。

なぜ立ち上がりの介助はつらくなるのか

立ち上がりの介助がつらくなる原因は、はっきりしています。「真上に引っ張り上げよう」としているからです。

ためしに、ご自分で椅子に座って、背すじを伸ばしたまま、まっすぐ上に立ってみてください。……ほとんど立てないはずです。

小学生の頃、椅子に座った友達のおでこを前から押さえて、立てるかどうか試した遊びをしませんでしたか。無理やり立とうとしても立てない、あの敗北感(笑)。立ち上がりも、あれとまったく同じ原理なんです。……あの遊び、私のところだけだったでしょうか(笑)。

人は、座ったままの姿勢で真上には立てません。それは重力があるからです。一度おじぎをするように前かがみになることで重心が足の方向へ移動し、はじめてお尻が浮くことができます。

立ち上がりは「上に引く」のではなく、「前に倒して、その勢いで立つ」動きです。

ここを知らずに腕を上へ引っ張ると、相手は後ろに体重が残ったまま。だから重いし、相手も怖くて余計に力んで足で踏ん張ろうとする。するとお互いにつらくなる悪循環です。

私がお伝えしたいのは、力の向きを「上」から「前」に変えるだけ、ということです。

お互いラクな立ち上がり介助の6つのコツ

それでは、具体的な手順を見ていきましょう。順番に押さえれば、力はほとんどいりません。

理学療法士タカタカ
キーワードは「足を引いて、おじぎして、前へ」。この3つだけ覚えてください。

① 足を、座面の下に引いてもらう

最初のコツは、足の位置です。

足が前に投げ出されていると、人は絶対に立てません。立ち上がる前に、両足を少し手前——お尻の真下に近づくくらいまで引いてもらいます。

以前、あるご家族の介助を拝見したとき、足が前に投げ出されたまま立たせようとしていて、「どうしても立たせるのがきつい」とおっしゃっていました。足が前に出ていれば、当然きつくなります。試しに足を引いてもらうだけで、立ち上がりは劇的に変わりました。実はこれ、介護職でも知らない方がいるくらい、見落とされやすいポイントなんです。

かかとが、膝より少し後ろにくる。これが立ち上がりやすい足の位置です。

足を引くだけで、立ち上がりはぐっとラクになります。

② 浅く座り直す

次に、お尻の位置です。

深く腰かけたままだと、立つまでの距離が長くなります。可能なら、お尻を少し前にずらして、浅めに座り直してもらいましょう。

立ち上がりの“スタート位置”を前にしておく、というイメージです。

③ 「おじぎ」をするくらい、深く前かがみに

ここが、いちばん大事なコツです。

頭を、つま先より前に出すくらいの気持ちで、深くおじぎをしてもらいます。すると、お尻が自然に浮いてきます。

「鼻が、足先の真上にくる」まで前に。これが合言葉です。

怖がって体を後ろに引いてしまう方も多いので、「いったん前に倒れるくらいでいいですよ」と、やさしく声をかけてあげてください。

一つ大事なことですが、体幹(背中やお腹の胴体部分)だけを前にかがめている方がいます。これでは体重がお尻に残ったままです。股関節(足の付け根)を曲げておじぎすると、体重が前に乗って、立ち上がりやすくなります。

理学療法士タカタカ
みなさん「立つ」と思うと上を向いてしまうんです。でも正解は、まず「前」。下を向くくらいでちょうどいい。股関節から曲げておじぎする、が合言葉です。

④ 介助者は「斜め上方向」へ誘導する

相手が前かがみになったら、介助者の出番です。

ここでも、真上に引っ張り上げてはいけません。相手の体を、おでこが向かう方向——つまり「斜め上方向」へ、すっと誘導します。

引っ張るのではなく、相手の前かがみの動きに、そっと手を添えて流れを助けるイメージ。手は、肩甲骨のあたりや腰を支えると安定します。

なお、立ち上がるときの手の置きどころも大切です。車椅子ならひじ掛け(アームサポート)に。椅子なら、太ももの外側にある座面のふちに手をついてもらうと、しっかり力が入って安定します。自分の膝の上に置くだけでも構いません。

⑤ 介助者も、膝を曲げて腰を落とす

介助する人自身の体の使い方です。

自分も膝を軽く曲げ、腰を落として構えます。背すじはまっすぐのまま。相手が前に出てくる動きに合わせて、自分は膝を伸ばしながら一緒に立ち上がる。

腕の力ではなく、自分の足腰を使う。これが、あなたの腰を守る大切なポイントです。

⑥ 立ち上がるときはタイミングを合わせる

最後はお互いの立ち上がるタイミングを合わせることです。

立ち上がるときは「立ちますよ」と声をかけ、お互いのタイミングを合わせます。タイミングがずれると、介助者は立たせようとしているのに、本人はまだ立つ準備ができていない、という状態になります。これでは介助者の負担が増えてしまいます。こうならないためにも、声をかけてタイミングを合わせることが大事です。

もっとラクにするための+α

環境を整える

立ち上がりは、環境でもラクになります。

椅子やソファが低すぎると、立ち上がりはとても大変です。座面が高めの椅子にする、クッションで高さを足すだけでも、ぐっと立ちやすくなります。足元の滑り止めも忘れずに。

手すりや福祉用具を使う

手すりがあると、立ち上がりは見違えてラクになります。前に置いた手すりを引き寄せるようにして立つと、自然に前かがみの動きを引き出せます。

立ち上がりを助ける手すりや、福祉用具の多くは介護保険を使ってレンタルできます。
福祉用具の選び方
福祉用具レンタルの使い方

「立った後」は移乗のコツへ

立ち上がったあと、車椅子などに移る場合は、移乗のコツが役立ちます。
ベッドから車椅子への移乗のコツ

まとめ|立ち上がりは「上」ではなく「前」

理学療法士タカタカ
完璧じゃなくて大丈夫。「足を引いて、おじぎ」だけでも、今日から変わりますよ。

最後に、要点をまとめます。

① 立ち上がりは「上に引く」のではなく「前に倒して立つ」動き
② まず足を座面の下に引いてもらう(かかとは膝より後ろ)
③ 浅く座り直して、スタート位置を前に
④ 「鼻が足先の真上」まで、股関節を曲げて深くおじぎ
⑤ 介助者は斜め上方向へ誘導し、自分は膝を曲げて一緒に立つ
⑥ 声をかけて、立ち上がるタイミングを合わせる

いちばん伝えたいこと
立ち上がりの介助でつらいときは、力が足りないのではなく、力の“向き”が違うだけ。「上」ではなく「前」。これだけで、介助する人もされる人も、ぐっとラクになります。

あなたの腰を守ることは、介護を長く続けるための土台です。どうか、ご自分の体も大切にしてくださいね。

あわせて読みたい

コメント

タイトルとURLをコピーしました