はじめに
「親を支えるたびに腰がズキッとする」「介護を始めてから腰痛が当たり前になってしまった」——そんなふうに感じていませんか。
はじめまして。介護老人保健施設で17年以上、理学療法士として働いているタカと申します。現場では、入所者さんのリハビリだけでなく、介護するスタッフやご家族の体の使い方もずっと見てきました。
そこで、現場でずっと感じてきたことがあります。介護の腰痛は、「力」よりも「体の使い方」で大きく変わるということです。
力の強い・弱いは、じつはあまり関係ありません。実際、体格の小さいベテラン職員ほど、腰を痛めずにひょいと上手に介助します。逆に、力まかせに「よいしょ!」とやってしまう人ほど腰を痛めることが多いです。コツさえつかめば、あなたの腰も、相手の体も守りやすくなります。
この記事では、腰を痛めにくい体の使い方を5つのコツにまとめて、できるだけやさしく紹介します。今日から変えられることばかりです。
すでに強い腰の痛み・しびれがある方は、無理をせず整形外科を受診してください。この記事は「これ以上痛めない」ための予防の話です。
なぜ介護で腰を痛めるのか|原因は「前かがみ」
介護の腰痛のいちばん多い原因は、はっきりしています。前かがみ(中腰)で、相手の体を持ち上げようとすることです。
低い位置にいる相手を起こしたり、ベッドの上の人に手を伸ばしたり——介護は「前かがみ」になる場面だらけです。この前かがみの姿勢で力を入れると、腰の一点に体重と相手の重さが集中します。「持ち上げよう」と気合を入れた瞬間に腰が“ピキッ”——あのぎっくり腰の多くは、この前かがみが犯人のことが多いです。
私が現場でよく見る「腰を痛める人」には、共通点があります。
- 足を動かさず、腰から上だけで作業しようとする
- 相手を「持ち上げよう」とする(本当は持ち上げる必要がない場面が多い)
- 自分ひとりで何とかしようと、無理な体勢のまま頑張ってしまう
腰痛は、介護職や介護をする方の“職業病”とも言われています。悩んでいる方はとても多く、腰痛が原因で介護の仕事を続けられなくなる方もいると言われています。現場でも、力まかせの介助を続けて腰を痛め、相談に来られた方を何人も見てきました。介護をする方自身がつらくなって、介護疲れにつながることもあります。だからこそ、体の使い方を少し変えるだけで、ぐっとラクになります。
逆に言えば、この3つを直すだけで腰痛はぐっと減らせます。次から具体的なコツを紹介します。
腰を痛めにくい体の使い方|5つのコツ
① 足を開いて、腰を落とす(前かがみにならない)
物や人を支えるとき、足を前後または左右に大きく開いて、ひざを曲げて腰を落とします。腰を曲げるのではなく、ひざと股関節を曲げるのがポイントです。もっと言うなら、片膝や両膝を床についてもいいです。
こうすると、腰ではなく太ももの大きな筋肉で支えられます。イメージは「お辞儀」ではなく「相撲の四股(しこ)」。ちょっと格好は悪いですが、腰痛のリスクは抑えられます。
② 相手の体にしっかり近づく
相手と自分の体が離れているほど、腰への負担は何倍にもなります。遠慮せず、ぴったり近づいてから介助しましょう。
ベッドが低すぎると、近づくためにどうしても前かがみになります。介助のときはベッドの高さを上げるだけで、腰はずいぶんラクになります。(高さ調整できる介護ベッドは、この点でとても優秀です)
ベッドの高さは、まっすぐ立って手を軽く握って下ろしたとき、こぶしがベッドに届くくらいが目安です。
③ 「持ち上げる」より「すべらせる・転がす」
人を真上に持ち上げるのは、いちばん腰に悪い動きです。介護では、持ち上げずに「水平にすべらせる」「コロンと転がす」で済む場面がほとんどです。
たとえばベッドの上で体の位置を直すときは、持ち上げずに横にスライドさせる。寝返りは、相手のひざを立ててコロンと転がす。重さを真上に受けないのが鉄則です。
④ 自分の体をひねらない(足の向きを変える)
腰をひねった状態で力を入れるのは、もっとも危険です。方向を変えるときは、腰をねじらず、足を踏みかえて体ごと向きを変えます。
「目線・へそ・つま先を、いつも同じ方向に」と覚えてください。ロボットになったつもりで、体ごとぐるりと向きを変える——これだけで腰のねじれ負担が消えます。
⑤ テコと相手の力を借りる(ひとりで頑張らない)
相手にできる動きは、相手にやってもらうのが正解です。「せーの」と声をかけて、相手が起き上がろうとする力に少し手を添えるだけ。全部こちらでやろうとしないことです。
そして無理だと思ったら、ひとりでやらない。福祉用具を使う、人を呼ぶ、これも立派な技術です。
5つの中で最優先は①の「前かがみにならない・腰を落とす」。これさえ体に染みつけば、腰痛のリスクはぐっと減らせます。
道具にも頼っていい|腰を守る福祉用具
「体の使い方」を覚えても、毎日のことだと体は疲れます。そこで、道具にも遠慮なく頼ってください。現場のプロも、どんどん道具を使います(むしろ使わないと、こちらの体が悲鳴をあげてしまいます)。
- 介護用ベルト(移乗ベルト)
相手の腰に巻いて持ち手にする。近い距離でしっかり支えられ、腰の負担をやわらげてくれます。 - 腰痛予防ベルト(介助者用のコルセット)
介助者自身の腰を支える。長時間の介護をする人ほど助けになります。 - スライディングシート/ボード
ベッドの上で体をすべらせたり、車椅子へ乗り移るときに使う。「持ち上げない介護」の強い味方です。 - 高さ調整できる介護ベッド
②でお伝えしたとおり、前かがみを減らせます。
これらは介護保険のレンタルや購入補助の対象になるものもあります。選び方や介護保険での借り方は、今後の記事でくわしく紹介していきます。
それでも腰が痛くなってしまったら
予防していても、痛みが出ることはあります。そんなときは、
- 無理に介護を続けない(悪化させると介護そのものができなくなります)
- 温める・休める(急な激痛で熱を持っているとき以外は、温めると楽になることが多い)
- しびれ・足に力が入らない・強い痛みが続くときは、整形外科へ
介護する人が倒れてしまうと、介護される人がいちばん困ります。あなたの体を守ることは、れっきとした介護の一部です。どうか後回しにしないでください。
まとめ
- 介護の腰痛の主な原因は「前かがみで持ち上げる」こと。力の強さはあまり関係ない
- 腰を守る5つのコツ
①腰を落とす
②相手の体に近づく
③持ち上げないですべらせる
④ひねらない
⑤ひとりで頑張らない - いちばん大事なのは①「前かがみにならない・ひざと股関節を曲げる」
- 移乗ベルトやスライディングシートなど道具にも頼ってOK(介護保険の対象になるものも)
- 強い痛み・しびれは我慢せず整形外科へ。介護する人の体を守るのも介護のうち
体の使い方を少し変えるだけで、介護はぐっとラクになります。あなたの腰を守りながら、長く介護を続けていきましょう。


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